月光




「遅くなってしまったな、蓮二」

大会を控え、ハードな練習が続く中、真田と柳は一番最後まで残っていた。

日に増して、部活の終了時間が遅くなる。

それは個人メニューの内容もさながら、大会前ということもあり

、練習が集中して増したのもあった。

それでもレギュラー全員、ぞれぞれのメニューをこなし、帰っていく。


みんなの練習が終わった後、二人は軽く打ち合っていた。

久しく打ち合いもしなかったためか、段々と回数を重ねるごとに二人の顔が真剣になっていく。

気がつくと、勝負がつかないまま、日が暮れていた。

それから、後片付けもあって、さらに遅くなっていた。

駅までの道のり。

距離的には十分程度。たいした距離ではない。

暗闇に黄色の月が浮かんでいる。

「いい月だな、弦一郎」

「あぁ」

二人になると、真田は聞き手になる。

いや、普段からそうだが、あまり必要なこと意外は口にしない。

柳もそうだが、真田と比べると、まだ話をする方だ。

「こういう夜は不思議と落ち着く・・・・」

柳はそう、言ってから足を止めた。

「蓮二?」

不意に止まった歩みに真田も足を止める。

くすっと柳は笑みをこぼす。

「弦一郎・・・知っているか?」

柳は真田と向き合うと、真田の首に両腕を回した。

「・・・蓮二?」

真田は柳のその行動を訝しげに見ていた。終始無言のまま。

「月は俺の心を高ぶらせてくれる」

柳の視線が真田を捕らえて離さない。

辺りが暗いせいもあるのか、月の明かりだけなのか、

やけに柳が妖艶で、悩ましく、そして美しく見える。

真田は一気に心が高調するのを感じた。

「暗闇は静かで・・・お前の吐息も鼓動もじかに感じる」

――だから、夜は好きだ。
――

柳は真田にささやきかけるように言葉を紡ぐ。

耳元での小さなささやき。愛しい人が静かに誘う呪文。

それだけで真田は理性が吹き飛びそうになる。

「・・・弦一郎・・・お前を感じていたい・・・」

真田の首に回された柳の腕の力がこもる。

ギュッ

真田は静かに柳の腰に両手を回す。

そして、そっと抱きしめる。

鼓動が速い。自分の耳にも聞こえるほどの音。

「蓮二・・・」

真田は静かに柳の名を呼ぶと、笑みを浮かべた。

「俺も・・・嫌いではない・・・」

真田はそう、つぶやくと、そっと、唇を重ねた。

――何故?――

その柳の問いには真田は答えなかった。

いえる訳がない。

――お前のそんな妖艶で悩ましい姿が見られる――とは・・・。

真田と柳はしばらくの間、永い永い口付けを交わしていた。


おわり